鉄コン筋クリート監督:マイケル・アリアス/ 原作:松本大洋/ 85点
配色デザインにおける鉄板の作法といえば、色調の統一である。最も簡単なのが無彩色の多用。白・黒・グレーを基調とし、そこにアイキャッチ色を追加する。次に簡単なのが、テーマカラーの採用。オレンジならオレンジとテーマを決め、その濃淡での表現を基本とし、他の色を使う場合も赤や黄色などの近似色を選んでおけば無難だ。先日見た「300」や、低コスト映画である「キャシャーン」はそういった手順での絵作りがなされている。 「色調を統一していないのにうるさくない配色」というのはもっとも高度である。しかし、花畑や極彩色の野鳥や熱帯魚の群れをみて「うるさい」と感じないように、多色でありながらうるさくない配色というのは、確かに存在しうる。
本作品の映像はまさにそれである。原作者である天才・松本大洋の特徴的な「輪郭線と同じ強度でのディテールの書き込み」をそのままに生かした、ごちゃごちゃした世界。そこに極彩色を乗せた、中国の祭りのような「チンドン屋的配色」にもかかわらず、映像はどこまでも澄んで美しい。 整理されきった登場人物の描線と緻密な背景とのコントラスト。場面によって大胆に使い分けられる表現手法。最近の作品ではほぼ禁じ手ともいえる実写映像の挿入など、ありとあらゆる手順で観客の目を喜ばせてくれる映像だけで、既にこの作品は100点だといっていい。 個人的に本作品の映像は宮崎駿を超えていると思う。Blu-ray版の不在が非常に残念だ。なお、本作の監督はアメリカ人とのこと。ジャパニメーションの頂点を揺るがす作品の監督が日本人ではないという点は皮肉である。
声優の多くは芸能人で、台詞はいかにもぎこちない。ただし、本作においてはそのぎこちなさが味となっているのは間違いない。ためしに有名声優の流暢な声での吹き替えを想像してみればわかる。本作品の作品性にはそぐわない。蒼井優の名演には脱帽する。
物語は「アニメ版北野武作品」とも言うべき、暴力的ジュウヴナイルなのだが、映像の美しさや非現実的描写によって、北野作品にありがちな「間口の狭さ」は感じない。万人にお勧めできるかといわれると言葉に詰まるが、見て損のない深さをちゃんと秘めている。
そんなわけで、この究極の映像をもつ良作品。一般人に85点。子供に70点。映画マニアに100点。やや難解な作品ではあるが、見て損はない。超おすすめ。
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