サイト内検索:  

容疑者Xの献身

作者:東野圭吾/ 原作:/ 93点
容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

価格:660円(税込、送料別)

福山雅治主演の実写化により一気に知名度がアップした有名シリーズ作の1つ。東野圭吾の事実上の出世作である(いや、小説家としてはもっと前から有名だったのだが)。いつもながらの「有名作嫌い」により敬遠していた本作だが、結論から言えば傑作だった。

 

本作は最初から犯人が明らかとなっているタイプのミステリである。都合、「模倣犯」と比較しつつ読むこととなったのだが、最初の印象は「鈍いな」というもの。模倣犯ほどの圧倒的プレッシャもなければ、文体の流麗さも無いため、非常に地味な印象。福山雅治の顔がチラチラする為、どうもキャラありきの作品に思えて仕方が無かったのだ。

序盤を過ぎるとテンションは上がり、集中して読み進めることができる...ものの、何か一つ物足りない。犯人探しのミステリには謎解きの楽しみがある一方、犯人がわかっているタイプの作品の場合、どの盲点をついて立件するかという、追い詰める側の知性を楽しむことになるわけだが、どうにも追い詰める側の行動が「ぬるい」のだ。

 

ところが、「うーん、もう一歩」などと思いながら読み進め、結末に差し掛かったところで、頭をガツンとやられた。なるほど、本作は「犯人がわかっている作品」でありながら、謎解きの部分で勝負していたのか、と気づかされた。そしてその瞬間「あの人」の印象が変わる。「気持ちがわかるけどそれはなあ」から、「どうして、そんな道しか残らなかったのだろう、くやしい」になってしまうのだ。理由は作中に描かれるが、なんとも切ない。「心情はわかる」→「でもそれはないわ」→「あらら、そこまでするのね。まぁ、落とし所はそこしかないか」→「ええぇぇぇ、そこまでやってたのかよ!」という終盤の追い込みは素晴らしい。

 

細かい欠点を指摘し始めるとキリが無いが、これだけ大掛かりな仕掛けのある作品にそれをやるのは無粋というもの。ミステリ好きに90点。ひがぴょんファンに95点。読んで損の無い作品だ。

 

なるほど、----実に面白い。

 

 

 

追記:

「細かい欠点を指摘するとキリが無いが」と書いたが、どうやらこの作品の公開後、「本格論争」等を含む様々な議論があったらしい。まぁ、意図的に「後出し」をして謎を作った作品であることは認めるが、それが許せない人は、最初から本格では無いと割り切った上で楽しく読めば良いと思う。っていうか、いちいち物を二元論で分類しないと気がすまないのって、ちょっと馬鹿馬鹿しいと思うのだ。