愛のひだりがわ作者:筒井康隆/ 原作:/ 82点
帯の煽りに『時をかける少女』をついに超えた、とある通り、氏の作品中では数少ない純文学作品の一つ。体裁はジュヴナイル小説であるが、ただの児童文学には終わっていない。退廃した街に育った不具の少女の一見ありがちな物語は、近未来というには遠い未来の、当たり前のように荒んだ世界で展開される。
意図的にライトに淡々と語られる凄惨な日常は、読者に救いようのない現実への恐怖心よりもむしろ諦観の念を抱かせる。物語は休むことなく展開し、胸騒ぎのような落ち着かなさが作品を強制的に牽引する。
少女は作中で失望し、戦い、成長し、やがて一応の結末を迎える。しかしこの 作品の主題は本当に「成長」なのだろうか?明らかな副題は「喪失」であろう。しかし成長のために失う物、そんな単純な加減算ではなく、この作品には強い「憤り」のような物を感じる。あるいは個人的に感じたと言うべきか。その「成長の過程」に対する感じ方の違いこそ、それぞれの人の生き方の違いなのだろう。
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