羊をめぐる冒険作者:村上春樹/ 原作:/ 85点
我々が夢に疑問を挟む事は少ない。夢の中では空を飛べたり、超能力が使えたり、化け物が出てきたりと不思議なことが起こりがちだが、その舞台設定に疑問を抱くことは殆ど無い。あくまで普通の世界だと見做した上で、その設定の上で起こる事件に一喜一憂することになる。例えば、突然空が飛べなくなったことに疑問を覚えたりする事はあっても、そもそも飛べる事自体がおかしいとは思いもしない。 村上春樹の作品には現実離れした設定が頻繁に登場する。しかしそれを馬鹿馬鹿しいと投げ出す事にはならない。違和感を感じつつもその状況を普通のことだと認識しながら読み進める羽目になる。丁度夢の中にいるように。結果として我々は、登場人物と一緒に「いとみみず宇宙」の不条理さに苦しむことになる。本作品はまさにその典型で、物凄い速度で異世界へと連れ去れてしまうこと請け合いだ。 大山鳴動して鼠一匹というような作品構造ではあるが、そこがまた実に青春三部作の締めにふさわしい。誰でも結果に対しては解釈が欲しくなるのだ。もう青春が思い出に変わったなと感じている読者は、一緒に羊をめぐる冒険に出かけると良い。
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