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1973年のピンボール

作者:村上春樹/ 原作:/ 70点
1973年のピンボール

1973年のピンボール

価格:1,470円(税込、送料別)

学生時代、研究の都合で40日ほどスウェーデンにいたことがある。ストックホルム大学で場所を借りて研究をしていたのだが、学生の扱いの余りの違いに驚いた。例えば実験室の掃除は掃除婦がする。生理食塩水が欲しければ、テクニシャンと呼ばれる作業員にメモを残すだけ。国の将来を背負うべき大学生が、その力の全てを知的活動に注げるよう、最善の環境が提供されていた。

日本における大学生の90%は単なる就職浪人生だ。授業をサボり、酒を飲み、翌朝遅刻する。コンパで女の子を引っ掛け、同棲し、また授業をサボる。やがて睡眠と飲酒とバイトで生活は構成され、少なくない人間が留年し、そのうちの半数が大学を辞める。高校や専門学校をでて就職した人にはちょっと想像できないような、極めて自堕落な4年間である。

 

日本で大学生活を経験することで得られる唯一のもの、それは生きることへの疑問ではないだろうか。本能のままに子供時代を過し、言われるがままに戦った受験戦争を終えた我々は、突然与えられたあまりにゆるい生活に、どこに向かえば良いのか分からなくなってしまう。自分が何の為に生きているのかと初めて疑問に思うわけだ。結果、新たな目標を得る者もあれば、そのままどこかへと消え去る者もいる。

 

本作品はそんな「疑問」を処理しきれない男の物語だ。リアルでありながら現実感の無い物語は、何の結論も教訓も残さない。そこにあるのは唯の「入り口」と「出口」だ。到達点を評価することに意味は無い。ただ、たどり着くべき出口を選ぶ行為、そして出口に向かって歩く行為自体に意味がある。その選択をそのままに受け止めるしかないのだ。

1973年のピンボール

1973年のピンボール

価格:420円(税込、送料別)