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かもめ食堂

作者:群ようこ/ 原作:/ 60点
かもめ食堂

かもめ食堂

価格:480円(税込、送料別)

人生というのはうっかりすると退屈になりがちなもので、平和ボケしたわれわれ日本人は、気を抜くと引きこもりになりかねないような危うさを備えている。このような変貌はおとなしくて真面目な女性に多く、「なぜあの子が」と噂される事になる。

退屈な日常からの脱却の別アプローチとして、物理的な移動という方法もある。長年勤めたOLがある日会社をやめ、英語を勉強して海外に行ったりするあれだ。中には高い志と共に渡航する方もいるのだろうが、多くは1年もしないうちに挫折して帰ってくる。日本語の通じるところですら快適な空間を築けなかった者が、海外でうまくいかないのはよく考えれば当然のことである。

 

本作品は、そういう自分の日常に息苦しくなった人たちが集う食堂のお話だ。その名前からは予測できないような場所に作られた食堂に、何かが欠落した人たちが集い、食事という時間を共有してゆく。あるものは居場所を見つけ、あるものは癒される。設定の過激さの割りには何事も無く穏やかな、非常にのどかな物語だ。

群ようこの描く登場人物の口調は独特で、読み始めるとすぐに異世界に引き込まれるような気分になる。逆に言えば現実感はやや希薄で、「架空の物語を読まされている」という気がするのも事実。何だか物事がうまく行き過ぎたり、話の展開がやや唐突だったりと、物足りない点も多いが、絵本を読んでいるような気分浸ることができる点は素晴らしい。

 

さて、とても幻想的なこの作品。女性に65点、男性に45点、のどかな世界に浸りたい人に70点というところか。読後に何かが残るわけではないが、息抜きにはぴったり。ただし、現在進行形で現実に閉塞感を抱いている人はあまり読まないほうが良いかも。人生は物語のようには行きませんよ、って事で。