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アキレスと亀

監督:北野 武/ 原作:/ 70点
【/】アキレスと亀

【/】アキレスと亀

価格:3,180円(税込、送料別)

芸術家とは何かをテーマにした映画。TAKESHIES、監督ばんざい!とあわせた、北野武3部作のひとつ。全てが北野武の内面を描いたものであり、本作は芸術家としての北野武の姿を描いたもの。

 

主人公はいわゆる才能のない芸術家である。少年時代に画家として生きることを夢見て、そして大成するまでの姿を描く....筈なのだが...という作品。この手の作品にありがちな予定調和から大きく外れるあたりが非常に北野作品らしくて良い。

本作の評価は70点とやや控えめなスコアとしたが、理由がある。作品中に余りにも救いのないシーンが連発され、免疫のない人間は拒絶反応を示すだろうからだ。ただしそれらは悪ふざけでも悪趣味でもなく、芸術家という「生き物」の本質を描くために必要なシーンである。あきらかに異常に見えるシーンも、実は非常にリアリティのあるものが多い。

 

-- 以下重大なネタバレ。 --

 

いささかコメディタッチであるがゆえに、残酷なシーンが不謹慎に見えるが、芸術家の執念を描くための表現としては非常にリアルなものであろう。これらのシーンを残酷だと糾弾する女性が、「余命xxxの花嫁」などをデートで見に行っているのを見ると、むしろその無神経さの方が残酷だと思うがいかがか。

 

作風を変えたり、人の手法を真似たり、過激な行動に走ってみたり、それら見苦しくも見える行動は、全て「すばらしい作品」を生み出そうという芸術家の自然な姿なのだ。前述の説明に「生き物」という表現を使ったが、芸術家とは職業ではなく、生き方なのである。

 

作品タイトルの「アキレスと亀」は微分の考えを利用した「本当っぽい嘘」の例えである。亀が100m先からスタートする。アキレスが100m進むと亀は少し前に進んでいる。アキレスが亀が居た場所まで進むと、亀はもう少し進んでいる。このように考えるとアキレスは永遠に亀に追いつけないと言うパラドックスだ。詳細はゼノンのパラドックスを参照いただきたい。

作品解説で武はこのタイトルを選んだ理由に、「芸術はこのパラドックスのようなものだ。本当のようで実体がない。だからこのタイトルを選んだ」というような説明をしている。しかし、本作品中での意味はそれだけではないだろう。主人公は亀でありながら、永遠に追いつけない存在であり、それこそが芸術家の本質なのだ。

 

 

そんなわけで、この「芸術家の執念」を「コメディと夫婦愛」というオブラートで包んだ良作品、一般人に70点、少しでも芸術家を目指したことのある人には90点。いやはや、天才たけしくんは伊達じゃないですよ。

アキレスと亀

アキレスと亀

価格:509円(税込、送料別)