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南極(廉)
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■これでいいのだ
南極(廉)は、南極夏彦という架空の小説家が主人公？？の連作ギャグ小説である。さりげなくギャグ小説と書いたが、冷静に考えるとそんなジャンルは聞いたことがない。でも、どっかでこう言う作風の本を読んだことが...と思ってはたと気づいた。単なる同人誌だよね、これ。
ってなわけで、本作品は真面目な作品を書くとついつい分厚くなってしまう事で有名な作家、京極夏彦による、二次創作とは名ばかりのタイトルだけ借りたものも多い、同人誌のようなものである。熱心なファンならご存知の通り、「どすこい」と同じスタイルの作品であり、主要登場人物も共通である。短編小説の連作となっているため、以下各タイトルごとに感想を書く。
【海で乾いていろ!】
「海は乾いていた」のパロディらしいのだが、無学にしてタイトルすら知らず。なんというのか、長い年月を生き抜いた老人って凄いよね。
【宍道湖鮫】
文字で見るとなんの事かわかりにくいが、声に出して読むと直ぐわかるとおり、新宿鮫のパロディである。宍道湖は「しんじこ」だ。原作を読んだことがないため、どの程度似ているのか不明。ただ、「どすこい」を読んだ際、原作を知ってるほうが若干面白いけど、知らなくても殆ど影響がないと感じたのでまぁ、気にしない。ってか、さすがにそうじゃないとプロの作品として困る。
宍道湖にあるUMAを探しにやってきたご一行のお話である。ドタバタであらそう、って感じ。個人的には印象の薄い作品だった。
【夜尿中】
これまた見て直ぐわかるとおり、「夜光虫」のパロディである。夜光虫を読んだことがないため、オマージュ度は不明。ただ、タイトルと途中の展開を見れば、直ぐにネタバレしちゃうよね、これ。とは言うものの、ちゃんとオチがついているほうが安心するのは事実。
【ぬらりひょんの褌】
これは他の作品とはカラーが違う。こち亀とのコラボレーション作品である。京極夏彦がこち亀をノベライズしたらどうなるだろう、というファンの想像がそのまま実現した形。主役を大原部長としている事もあり、真っ当な小説として楽しむことができる。ただ、こち亀読者なら一瞬でネタがバレるよね、これ。予定調和も含めてこち亀っぽいとも言えるから良いけど。
【ガスノート】
もはやタイトルの出オチだなこれ...と思ったら、作中の登場人物も同じことを言っていた。デスノートのパロディであることは、もはや言うまでもないだろう。展開も想像通り。ただ、結末は想像通りではない。
【探偵がリレーを…】
これも声に出して読まないと字面では気づきにくいが、「探偵ガリレオ」のパロディである。内容は全くもって関係がない。東野圭吾っぽいお方が登場するぐらいか。これまたムー的なネタをちりばめていらっしゃるようで、なるほど、実に面白い。
【毒マッスル海胆ばーさん用米糠盗る】
原作未読。このタイトルをみて原作が何か直ぐわかった人は、平山夢明の相当のファンだと思われる。原題は「独白するユニバーサル横メルカトル」ここまで来ると、「整いました」の世界に近い。タイトルから後付で無理矢理ストーリーを考えたに近い。が、おかげで「うまく整えたな」とにやりとした。純粋なギャグ系作品の中ではお気に入りのほう。
【巷説ギャグ物語】
これは凄い。なんとバカボンとのコラボであり、挿絵は今は亡き、赤塚不二夫先生ご本人である。天才バカボンの小説化ではあるものの、前述の「ぬらりひょん」とは切り口が全然違う。登場人物たちは自分達が創作世界の人物であることを明確に理解しているという、メタ小説である。
面白いのが、漫画と小説の方法論の違いの取り扱いなど。バカボンのキャラクタがメタに自分達の世界を分析するシーンや、小説からの登場人物と互いの世界の違いを語り合うシーンはシュールなギャグであると同時に、文学的分析のようで面白い。そして何よりも凄いのが、そういった世界観が、実はバカボンの世界に非常に近いということ。アニメ版しか知らない人にはなじみがないだろうが、天才バカボンという漫画はそういう破天荒な、漫画の常識を覆すような作品だったのだ。そういう帰結ができるということ、それはすなわち京極氏がバカボンという作品をいかにリスペクトしているかの証明以外の何物でもない。本作中ベストの作品。
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